ふっくらとしたおいしいパンをつくるには、パン生地の主成分である小麦粉だけでなく、イーストの品質も重要な決め手となります。スーパーや100円ショップなど行くと、いくつかの種類のイーストが売られていますが、それぞれには一体どんな特徴があるのでしょうか。今回はパン生地づくりに欠かせないイーストの役割とその種類についてご紹介します。
◎イーストとは
イーストとは自然界に広く存在する微生物のなかから、パン生地づくりに最も適した菌(パン酵母菌)を集めて純粋培養したものです。発酵力が安定しており、短時間でふっくらとしたパン生地に仕上げることができるため、日常のあらゆるパン生地づくりに適しています。
イーストの主な役割は2つあります。まず1つはパン生地をふくらませることです。パン生地にイーストを加えてこねると、イーストは酸素が十分に確保できなくなるため、パン生地に含まれる糖類を分解して成長するためのエネルギーを得ようとします。この働きは発酵と呼ばれるもので、ふっくらとしたパン生地をつくるには欠かせない活動です。イーストなくしてパンと呼べるものをつくることはできません。無発酵のパンは硬くてボリュームのない仕上がりになってしまいますので、ふっくらとしたおいしいパンをつくるなら、必ずパン生地にイーストを加えましょう。
イーストのもう1つの役割はパンの風味をつくることです。イーストを使ってパン生地を発酵させると、パンをふくらませるための炭酸ガスや風味成分となるエチルアルコールなどが生成されます。そのため、パン生地づくりではどんなイーストをどのぐらい使用するかが非常に重要となってくるわけです。
イーストは「生タイプ」「ドライタイプ」「インスタントタイプ」の3種類に大きく分類されます。それぞれ適したパン生地が異なるため、パン生地をつくる際は目的に合わせてイーストを選ぶことが大切です。
◎生タイプの特徴
生タイプはパン酵母菌を純粋培養した後に水洗い・水切りを行い圧縮した固形状のイーストで、黄土色の粘土のような見た目をしているのが特徴です。パン酵母菌が生きた状態で存在するため、糖分を分解する働きが活発的で、砂糖が多く含まれるパン生地ほど発酵が早く進みます。
そのため、どちらかといえば菓子パンや食パンなど、ソフト系のパン生地づくりに適しているといえるでしょう。また、生タイプは浸透圧に強く、低温に対する耐久性があることから、冷凍保存しておきたいパン生地にも使用することができます。フレッシュな分、劣化は早いため開封後すぐに使い切る必要がありますが、パン屋さんで売られているようなパン生地をつくりたい方はぜひ生タイプを使ってみましょう。
生タイプを使ってパン生地をつくる時は、水に溶かしてから使用するのが一般的です。35~40℃のぬるま湯に溶かして使うと、イーストがより活動的になります。一方、60℃以上のお湯に溶かすとパン酵母菌が死滅してしまうので注意が必要です。
また、生タイプは使用期限や保存方法にも気を付ける必要があります。生タイプはドライタイプに比べて劣化が非常に早いため、開封後は2~3日を目途に使い切りましょう。保存する際はラップやキッチンペーパーなどで生タイプをしっかりと包み、密封容器に入れて冷蔵保存します。冷凍保存はできないので注意してください。
◎ドライタイプの特徴
ドライタイプは文字通り、イーストを長時間乾燥させて顆粒状にしたものです。
同じイーストでも生タイプとは異なり、糖分の多いパン生地づくりにはあまり適していません。なぜなら、ドライタイプは浸透圧に弱く、砂糖が多く含まれているパン生地に使うと水分を奪われて細胞が壊れてしまうからです。
また、市販のドライタイプの多くは低糖性で、パン生地に含まれている糖分(ショ糖)ではなく、小麦粉に含まれる糖分(マルトース)を分解します。そのため、パン生地に砂糖が多く含まれていると、その糖分がドライタイプの働きを阻害してしまうので、発酵が鈍り思うようにパン生地がふくらまなくなってしまいます。
とはいえ、ドライタイプのなかには耐糖性のものもあるので、パン生地に砂糖を多く加える場合はそういったものを使うのも1つの手です。小麦粉に対して糖分(砂糖など)を2割以上入れる場合は、生タイプまたは耐糖性ドライタイプを使用しましょう。ドライタイプは発酵した時にイースト独特の香りが出るので、フランスパンなどパン特有の香りを楽しめるパン生地づくりにおすすめです。外側がしっかりめに焼きあがるので、ハード系のパン生地をつくる際にぜひ使ってみてくださいね!
ドライタイプはパン酵母菌が仮眠している状態なので、パン生地をつくる際は1度ぬるま湯につけて予備発酵させる必要があります。予備発酵したイーストは保存せず、その時に使い切るようにしてください。水に溶かしていない開封済みのイーストは、密封容器に入れて冷蔵保存します。未開封の場合は直射日光を避け、風通しの良いところに保存しましょう。ドライタイプは日持ちが良く、未開封で約2年、開封後でも約1ヵ月保存することが可能です。ただし、開封後は時間の経過とともに発酵力が低下してしまうので、ふっくらとしたパン生地をつくりたい場合はできるだけ早く使い切ることをおすすめします。
◎インスタントタイプの特徴
インスタントタイプは生タイプを凍結乾燥させて顆粒状にしたものです。見た目はドライタイプによく似ていますが、インスタントタイプは予備発酵する必要がなく、直接パン生地に混ぜて使うことができます。
加糖パン生地・無糖パン生地とそれぞれに適したタイプがあるため、全てのパン生地づくりに対応できます。保存期間も長く、未開封の場合は約2年持つので、初心者にとっては非常に使い勝手の良いイーストといえるでしょう。
◎まとめ
イーストは「生タイプ」「ドライタイプ」「インスタントタイプ」の3種類に分類され、それぞれ異なる特徴を持っています。「どれを選べばいいのかわからない!」という方は、保存期間が長く、どんなパン生地づくりにも対応できるドライタイプから使い始めてみるのがおすすめといえるでしょう。
またイーストは種類だけでなく、発酵時間やイーストの使用量によってもパン生地の仕上がりが変わります。色んなレシピを試して、ぜひ自分好みのパンをつくってみてくださいね。