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家庭用のオーブンでパンを焼くときのポイントとは

2022年11月15日
パン生地の二次発酵が終わったら、焼成の工程に入ります。実際に使用するオーブンによって、パンの焼き上がり具合が異なります。この記事は、ご家庭のオーブンでパン生地を焼く際のポイントや注意点をご紹介します。
◎3つの段階からなるパンの焼成とは
パン生地を焼いてパンができあがることを「焼成」と言います。英語のベイカリー(パン屋)やベイカー(パン職人)という言葉はベイク(bake:焼く)からきているほどパン作りにおいて焼成は重要だと考えられてきました。
 
オーブンに入れたパン生地は、おおよそ次の3つの段階を経て焼き上がります。まず、パン生地をオーブンに入れた直後は、大きく膨らむ「窯伸び(オーブンスプリング)」をします。これは、パン生地のグルテン膜に閉じ込められた炭酸ガスや二酸化炭素が、オーブン内の熱により膨張するからです。パン酵母(イースト)は、パン生地の温度が60℃になるまで働くので、オーブン内の熱によってより活発に発酵が進みます。窯伸びによってオーブンに入れる前のパン生地より20〜30%ほどボリュームが出ます。パンの焼成時間全体の約3割がこの段階です。
 
次に、パン生地の温度が60℃を超えるとパン酵母が死滅して、パン生地が膨らむのが止まります。するとグルテンのタンパク質が固まっていき、余分な水分が蒸発してパンのクラスト(パンの外側の部分)ができはじめます。同時にパン生地内のデンプンがアルファ化(糊化)して、食べた時に消化しやすくなります。このときのパン生地の温度は60〜100℃くらいです。この段階は、パン生地の焼成時間の約4割を占めます。
 
最後に、メイラード反応やカラメル化反応によって、クラストに焼き色がつき、おいしそうなパンの香りがしてきます。パンの内部ではクラムが形成されています。焼成時間のおおよそ3割くらいです。

◎パン生地を家庭用オーブンで焼成するポイント
家庭用のオーブンを使ってパン生地を焼く場合、焼きたいパンの配合・重量・オーブンの性能などによって焼成時間や温度は異なります。特に家庭用のオーブンは、オーブンごとに焼き上がりが変わるため、レシピ通りの時間と温度で焼成しても上手くいかないことがあります。パンの種類や大きさなど、ほかの条件が同じでもオーブンが違うだけで焼き上がりがかなり変わるのです。
 
焼成時間が足りないと、パン生地に水分が多く残って全体に火が通らず、生焼けになります。反対に焼成時間が長過ぎると、水分が蒸発して焼き上がりのパンはパサパサになりがちです。パンに残った水分は、パンの美味しさを決める大きな要因の1つですので、パン生地の焼成時間は、焼成する温度よりも重要です。さらに、ふっくらとボリュームのあるパンを焼くには、焼成の最初段階の窯伸びを上手くする必要があります。そのためには、パン生地をオーブン内に入れた直後に発酵がより活発になるよう、オーブンをしっかり予熱しましょう。業務用のオーブンでは、下火の温度が高いとパン生地が膨らみやすいため、下火のない家庭用のオーブンを予熱する際には天板も庫内に一緒に入れて予熱するのがおすすめです。パン生地をオーブンに入れた際に熱がパン生地に伝わりやすく、発酵が活発になるからです。パン生地がムラなく、まんべんなく焼けるよう、焼成の途中で天板を反転させるときは、パン生地に衝撃がかからないように優しく、温度が下がらないようにすばやく行います。
 
ハード系のパンなど、油脂が少ないリーンなパン生地を焼く際は、蓄熱量などオーブンの性能が大きく影響するため、家庭用のオーブンで上手に焼くのは比較的難しくなります。オーブンの熱量が弱いと、フランスパンなどのハード系はクープが割れ難いです。クープを開くには、オーブンの充分な温度と蒸気が必要なため、ハード系のパンを焼く際は、オーブンのスチーム機能を使います。スチーム機能がない場合は、耐熱容器にタルトストーンなどを入れたものを、オーブンを予熱する際に庫内に入れて一緒に予熱し、パン生地の焼成前に熱湯を入れる方法で蒸気を発生させることができます。パン生地をオーブンに入れる際は、クッキングシートの上に置いて天板に滑らせたり、スリップピールを使ったりして素早く移動し、オーブンの庫内の温度が下がらないようにしましょう。
 
家庭用のオーブンで上手にパン生地を焼成するには、まずは、レシピ通りの時間と温度で1度焼いてみてください。そのパンの色や香り、食感など、焼き上がりの状態をチェックして記録しましょう。その記録をもとに、次のパン作りの際に、温度やタイミングなど調節して焼成すると、次第にちょうど良いオーブンの設定が分かってきます。電気オーブンを使用している場合は、オーブンの表示温度より実際の庫内の温度が低い場合があります。気になる場合は、オーブンの庫内の温度を計れる温度計を使ってみましょう。オーブンの表示温度と実際の庫内の温度に差があることが分かれば、より適切な温度に調節しやすくなります。
 
パンの中心部まで焼けているかの確認は、パンをひっくり返して、裏面に焼き色がついていれば火が通っている目安になります。パンが焼き上がったらすぐに取り出し、鉄板ごと台などに軽く打ち付けてパンにショックを与えてください。パンの内部の熱すぎる空気が抜けて室内の空気と入れ替わるので、粗熱が取れた時にシワになりにくいパンになります。

◎パン生地の焼成で注意すること
ロールパンや菓子パンなど、1度に複数個焼く場合は、均等に焼き上がるよう、パン生地の重量を揃えましょう。二次発酵が終わったらすぐにオーブンに入れて焼成に入りたいので、予熱に時間がかかるオーブンの場合は、二次発酵を終わらせる時間を調整して、パン生地が過発酵にならないよう、注意することも大事です。二次発酵後のパン生地は、グルテン内に溜まった炭酸ガスを逃さないよう、丁寧に扱います。
 
焼成の途中は、オーブンの扉をできるだけ開けないようにしましょう。1度開けると家庭用のオーブンでは、10〜30℃庫内の温度が下がってしまうこともあるからです。特に窯伸びの際に庫内の温度が下がるとパン生地がしぼんでしまうので絶対に開けないようにします。焼成時間を延ばすと、その分パン生地が乾燥していくので、なかまで火が入りにくい場合や、焼き色がつきにくい場合は、温度を上げて焼成しましょう。逆に焼き色が濃すぎる場合は温度を下げて焼くようにしてください。

◎まとめ
自宅のオーブンの傾向を把握していると、思い通りのパンを焼くのに役立ちます。何度もパンを焼いて調整するのは手間がかかりますが、理想の状態のパンが焼けると、その喜びもひとしおでしょう。