パン作りと聞いて思い浮かぶのは、パン生地をこねている様子ではないでしょうか。ひとことでパン生地をこねると言っても、いくつか抑えておきたいポイントがあります。この記事では、パン生地づくりの基本「こね」のポイントや注意点をご紹介します。
◎パン生地をこねる理由
パン生地をこねる工程は、ミキシングとも呼ばれています。こねることで材料が均一に混ざり、イースト(パン酵母)が働きやすくなったり、パン生地の発酵が順調に進んだりするのです。さらに、パンの骨格であるグルテンの形成をうながして、作られたグルテンを強化するという役割もあります。
粉(小麦粉)に水を混ぜて、力を込めてこねると、小麦に含まれるタンパク質の「グルテニン」と「グリアジン」が水分と結びついて、グルテンが形成されます。グルテンは、粉に水を混ぜて時間をおくだけでも形成されますが、グルテン同士の結びつきを強化し、しっかりとした網目構造を作るためには、こねの作業は欠かせません。
こねることで、パン生地のグルテンの網目構造のなかに炭酸ガスが溜まって、パン生地が膨らみやすくなります。丸パンやロールパン・菓子パン・食パンなどの、フワッとボリュームがあり、肌理が細かいパンを作りたいときは、しっかりとパン生地をこねます。反対にバゲットやリュスティックなどのハードパンを作る場合は、ボコボコとした気泡と、小麦の味わいが特徴なので、それほどこねる必要はありません。
◎パン生地におけるこね方の種類
パン生地のこね方は、主に「伸ばしこね(たてこね)」「V字こね(転がしこね)」「たたきこね」の3種類があります。
伸ばしこね(たてこね)は、合わせた材料を手のひらのつけ根部分を使って、力を加えながら、奥に伸ばしたり、手前に引いたりしてこねる方法です。グルテンのつながりが弱い、パン生地のこねはじめや、油脂を入れた直後にも行う、パン生地の基本のこね方です。
V字こね(転がしこね)は、パン生地とこね台の摩擦でこねる方法で、ひとまとめにしたパン生地を両手で覆い、V字のつけ根から左右にVを描くように左右に転がしてこねます。パン生地のつながりを壊さず、グルテンを強化できるのが特徴です。パン生地の温度を上げ、肌理が整ってきます。水分が少なめの固めの生地などにも扱いやすいこね方です。
たたきこねは、パン生地の片端を指4本に引っかけて、台にたたき付けた後に、指にかけたパン生地を向こう側へひっくり返しながら、表面を張ってこねる方法です。力を込めてパン生地をこね台にたたきつけるのではなく、パン生地がちぎれず、荒れない程度に力加減をします。たたきこねをすると、グルテンが強化される効果がありますが、パン生地の温度が冷えやすいので注意が必要です。水分が多く、柔らかいパン生地などをこねるのにも向いています。
これらのこね方は、どれか1種類の方法でパンを作るというのではなく、パン生地の状態に合わせて組み合わせこねていきます。どのこね方を使って、何分こねるかなどの正解はなく、プロのパン職人でもパン生地のこね方は人それぞれです。こね方はさまざまでも、パン生地にグルテンがしっかりと形成されていれば、こねの工程は成功とも言えるでしょう。
◎パン生地のこねの工程とポイント
まず、パン生地の材料をボウルに入れて混ぜます。最初に粉類だけを十分に混ぜた後に、水分を合わせると材料が均一になりやすいです。ボウルに付着した粉類も一緒に混ぜ、全体の水っぽさがなくなったら、こねていきましょう。
こね台の上にひとまとめにしたパン生地を置き、「伸ばしこね」で奥に押したり引いたりしながらこねていきます。こねはじめは、パン生地にグルテンが形成されていないのでベタベタします。手やこね台にパン生地が付着する場合は、ときどきスケッパー(カード)で取り除いて、全体をひとまとめにしてから、さらにこねましょう。数分こねていると生地がまとまってくるので、「V字こね」や「たたきこね」も組み合わせながら、さらにこねていきます。こねている途中にパン生地が固いと感じたら、水分を足します。その際、1度に水分を加えるのではなく、両手に水分をつけてこねたり、こね台に霧吹きで水分を吹き付けた上でパン生地をこねたりするなど、少しずつ足していくのがポイントです。また、グルテンがしっかり形成されてから水分を足すのは難しいので、早い段階で足しましょう。こねていくうちに次第にパン生地がまとまり、伸展性と弾力が出てくると、手やこね台にほとんど付かなくなってきます。パン生地を引っ張ると、最初はブツブツと切れていたのが、切れずに伸びるようになるのです。
次はパン生地に油脂を加えます。油脂を加えるのが早すぎると、グルテンの形成を阻害するので、ある程度グルテンが形成されてから加えましょう。油脂を入れると、1度グルテンのつながりが切れてパン生地がベタベタしますが、さらにこねていくと、パン生地がまとまってきます。油脂が入るとパン生地が伸びやすくなり、グルテンの網目構造に炭酸ガスなどを溜め込みやすくなるのです。そのおかげで、焼成時にボリュームが出やすくなります。同時にパン生地内の水分が蒸発しにくくなるので、焼いた後にパンのしっとり感が長持ちします。パン生地の表面に光沢が出て、ツルッとなめらかになり、ボツボツ感がなくなった状態がこね上がりの目安です。パン生地を両手で左右に優しく引っ張ると、グルテンの膜ができて、生地の向こう側の指の色が透けるくらい薄く伸びます。
こね上がりのパン生地の温度は25〜28℃を目指しましょう。手ごねの場合、パン生地をこね過ぎることはほとんどないため、安心してしっかりこねていきましょう。さらにパン生地の手触りや見た目で最適なこね具合を判断できるようになると、パン生地づくりの上達が早くなります。
◎パン生地をこねる際の注意点
パン生地の温度が高すぎても、低すぎてもまとまりにくくなるため、季節や室温に合わせて夏は10℃以下、冬は40℃以下を目安に、仕込み水の温度や材料の温度などで調節します。パンの美味しさや食感には水分量が大きく関わってくるので、室温やこねる時間の長さに気を付けて、パン生地の乾燥を防ぐことも大切です。1度グルテンの網目構造が傷んでしまうと回復が難しいので、グルテンが形成されはじめたら、パン生地が荒れないように丁寧に扱いましょう。
◎まとめ
パン生地作りのさまざまな工程のなかでも、こねの作業はとても重要です。はじめは感覚を掴むのが難しいですが、慣れてくると1番楽しい作業でもあります。パン作りの要である、こねを自分のものにして、美味しいパンを作りましょう。