「パン作りは楽しいけれど、工程が多いし時間もかかって大変」といった悩みを解決できるのが、パン生地を保存してパン作りの日程を分ける方法です。この記事では、パン生地を保存するメリットや具体的な保存方法、抑えておきたいポイントをご紹介します。
◎パン生地を保存するメリット
パン生地を保存する大きなメリットは、はじめから作るほどの手間をかけずに、焼きたてのパンが好きなタイミングで食べられるようになることです。パン作りは、準備から焼き上がりまで通常3〜4時間はかかります。たとえば「焼きたてのパンを朝ごはんに食べたい!」と思ったら、早起きをして作らなければなりません。しかし前日までにある程度の工程まで済ませてパン生地を保存しておけば、パンを食べる当日の作業時間を大きく省けるのです。
オーバーナイト法というパン生地の保存方法がありますが、これはフランスのパン職人が、前日の夜中から働かなければならないような過酷な労働環境を変えるために編み出された方法です。現代では、仕事や家事に追われてなかなかパン作りのためにまとまった時間が取れないという方も多いでしょう。パン生地の保存は、日々忙しい現代人にこそ試すべき方法といえます。
◎パン生地の便利な保存方法
パン生地を保存する方法は、主に冷凍と冷蔵の2つのパターンがあります。それぞれ必要な環境や保存期間が異なるので、自分に合った保存方法を選ぶことが大切です。
◯冷凍保存
大量に作った場合など、長期間パン生地を保存したいのであれば、冷凍保存が適しています。約2ヶ月間保存できるので、その間は好きなときに焼きたてのパンを手軽に食べられるようになります。
パン作りの工程において、パン生地を冷凍するタイミングは3回あります。1つ目はベンチタイムの後で、個別にラップに包んでから冷凍庫へ入れます。2つ目は成形した後です。天板に並べて1度冷凍し、カチカチになった段階でジッパー付きの保存袋などにまとめて入れて再び冷凍します。3つ目は二次発酵の後になりますが、二次発酵後はパン生地が膨らんでいるので途中で形が崩れるリスクがあるため、あまり推奨はされていません。毎回違ったパンを楽しみたいのならベンチタイムの後、できるだけ食べるときの手間をなくしたいのなら、成形後に冷凍するのが良いでしょう。
解凍する際は、冷蔵庫に移して8時間置いておくか、室温で1〜2時間程度置いておきます。急いでいる場合は、電子レンジの弱めの温度設定で様子を見ながら20〜30秒くらい加熱して解凍していく方法もあります。解凍の度合いを見ながら、少しずつ加熱するのがポイントです。
パン生地の冷凍保存に向いているのは、砂糖やバターが多く含まれるバターロールやクロワッサンです。砂糖やバターが入っていないパン生地は、二次発酵がうまくいかない場合があります。そのため、フランスパンのような糖分が少ないパン生地や、ライ麦や全粒粉を使ったものは冷凍には向いていません。食パンなどパン生地の量が多い種類も生地の温度にムラが生じやすいので、冷凍保存には不向きです。
◯冷蔵保存
冷蔵保存は、低温で長時間発酵させるパン作りの製法です。パン生地を一晩寝かせておくことから、オーバーナイト法ともいわれています。「前日にパン生地を仕込んでおいて翌日の朝に楽しみたい」といったときに適した方法です。
冷蔵してゆっくりとパン生地を発酵させると、酵母の働きが活発になりアルコールや菌が多く生成されるので、風味の豊かなパンが作れます。発酵時間が長い分、小麦粉に含まれるでんぷんが糖に変わることで甘みも増します。さらには、小麦粉の芯まで水分が浸透するのでしっとりとした食感になります。
パン生地を冷蔵保存する場合は、あらかじめイーストの量を通常の3分の1から2分の1程度に留めておきます。パン生地は寝かせている間にグルテンがつながるので、それほどこねる必要はありません。軽くこねたら一次発酵後に冷蔵庫へ入れます。低温で長時間発酵させるのに適した温度は5〜9℃なので、冷蔵室よりも野菜室が好ましいでしょう。冷蔵保存しておける目安の時間は8〜24時間程度です。パン生地を使う際は、生地の温度が15℃になるまで20〜25℃の室温に置いておき、その後分割、成形の工程へと移っていきます。
冷蔵保存は、バターや砂糖の多いパンからフランスパンなどの油脂の少ないパンまで、幅広く適用できます。ただし、ライ麦パンはライ麦の性質上あまり向いていません。ライ麦は酸味の原因となる乳酸菌と酢酸菌を含んでいるので、長時間発酵させると酸っぱくて雑味のあるパンになってしまうのです。
◎天然酵母を使ったパン生地の保存方法
天然酵母は、市販のイーストと比べてゆっくり発酵するので、その特徴を利用してパン生地を保存する方法もあります。天然酵母を使ったパン生地を保存することで、酵母の熟成が進んで味わい深くうま味のあるパンが作れます。
天然酵母を使ったパン生地を保存するなら、こねた後の一次発酵の前のタイミングがベストです。発酵が進まないように凍らない程度に冷凍庫で冷やしてから、冷蔵庫へ入れて保存します。通常なら冷蔵庫で4日間程度保存できます。季節を考慮すると、夏なら1〜2日、真冬なら1週間程度が目安です。冷蔵庫から出した後は、パン生地を常温に戻してから発酵させ、その後通常のパン作りの工程へと移ります。
◎パン生地を保存する際のポイント
パン作りのすべての工程においていえることですが、保存の際はパン生地を乾燥させないことが重要です。保存の際にはラップをかけたり、必要に応じて濡れ布巾をかけたりして対応しましょう。乾燥させないようにパン生地を覆うことは、異物混入を防ぐことにもつながります。
パン生地を保存する際には、温度管理も大切です。パン生地は4℃で発酵活動が止まり、10℃以上だと発酵しすぎてしまうということを理解しておくと、保存に適した環境が理解しやすくなります。冷凍庫や冷蔵庫にものが入りすぎていたり、開け閉めを頻繁にしたりすると温度が変わってしまうので注意が必要です。
パン生地を冷凍、または冷蔵から取り出してパン作りを再開する際には、なかまできちんと復温させないとパン生地内の温度にムラができてしまい、焼き上がりに影響を及ぼします。冷やすときは一気に、戻すときはゆっくり、というのがパン生地に負担をかけない方法です。たとえば、冷凍保存していたパン生地を復温させるなら、1度冷蔵庫に入れて、その後室温に戻すというように段階を踏むと良いでしょう。
◎まとめ
パン生地を保存すれば、まとまった時間が取れなくてもパン作りができるようになります。乾燥や温度管理に気をつけながらパン生地の保存方法を実践して、焼きたてのパンを手軽に楽しんでくださいね。