発酵時間の長さやパン生地の温度が原因でパンの発酵が進みすぎると、過発酵という状態になります。過発酵はパンの味や香りが損なわれるので、せっかくのパン作りが台無しになってしまいます。この記事では、過発酵の仕組みやサイン、過発酵を防ぐポイントについてご紹介します。
◎過発酵が起こる仕組み
パン生地の主な材料である小麦粉は、弾性のある「グルテニン」と粘性のある「グリアジン」というタンパク質からできています。2つのタンパク質は、水と合わさることで網目のように絡み合い「グルテン」を形成します。パンのもちっとした食感や弾力は、グルテンの粘弾性によるものです。パン生地をこねるほどに網目状のグルテンは何重にも重なり、パンを支える骨格となります。
一次発酵や二次発酵のとき、パン生地のなかではイーストが糖分を分解して炭酸ガスやアルコールを生成しています。パン生地が発酵時に膨らむのは、グルテンが風船のようになって炭酸ガスを包み込むからです。グルテンとイーストをうまく連携させて適切な発酵ができれば、味も香りも食感も良いおいしいパンが作れます。
しかし、発酵時間が長すぎたりパン生地の温度が上がりすぎると、パン生地内の炭酸ガスやアルコールは過剰になります。必要以上に生成された炭酸ガスによって引き伸ばされたグルテンでは、ガスを保持できなくなります。過剰に発生したアルコールはグリアジンを溶かし、グルテンの形成を弱くします。その結果、パン生地は弾力がなくなって緩んだ状態になってしまうのです。これが過発酵の仕組みで、1度壊れてしまったグルテンを、再び戻すことはできません。
過発酵になったパン生地はハリがなくなり、焼いたとしてもしわが寄ったり、つぶれたり、陥没したりします。パン生地の糖分は分解されすぎてしまい、焼き色が付きにくく、甘みのないパンになります。さらに、イースト臭や強いアルコール臭も通常の発酵より強く感じられます。炭酸ガスの気泡は、不均一で荒くなるため、食感はパサパサで口どけが悪くなります。過発酵が起きると、おいしいパンからはほど遠い仕上がりになってしまうのです。
◎パン生地が過発酵しているサイン
過発酵が起こっているときは、いくつかのサインが現れます。まず、パン生地の弾力がなくなったり、平べったくなったり、表面がでこぼこしてきたら過発酵している可能性があります。炭酸ガスとアルコールが過剰発生するため、ツンとした酸っぱい香りやアルコール臭がすることもあります。また、一次発酵後のガス抜きの際、通常はプチプチと気泡が弾けるような音がしますが、この音が聞こえないときも過発酵を疑いましょう。
パン生地の発酵具合は、フィンガーチェックによって確かめることができます。一次発酵のときは、パン生地の中心に指を第一関節くらいまで入れて抜いたら、その後の穴の状態を確かめてみましょう。ゆっくり元に戻りながらも穴が空いたままの状態であれば問題ありませんが、穴から空気が抜けてパン生地がしぼんでしまうようなら過発酵が起こっています。二次発酵のときは、成形後のパン生地の表面を指の腹でそっと押してみましょう。適正な状態なら、へこみの跡が少し残るくらいですが、へこみの部分から空気が抜けてパン生地がしぼんでしまうのは過発酵のサインです。
1度過発酵してしまうと、理想のパンに仕上げるのが難しくなります。しかし、リメイクすれば過発酵になってしまったパン生地を無駄にしなくて済みます。パン生地を伸ばし、フォークなどで穴を開け、好きな具材やケチャップ・チーズを乗せて焼けばピザにできます。甘みや塩味、香りの強い具材をトッピングとしてうまく使えば、イースト臭やアルコール臭は気にならなくなります。パン生地をコッペパンやドーナツの形にして、油で揚げるという方法もあります。そのままではあまり味がしないので、砂糖をまぶすなどアレンジして食べるといいでしょう。また、とりあえず焼いてしまったという場合でも、クルトンにすればサラダやスープと一緒に楽しめます。乾燥させたあとに、細かく砕いてパン粉にしてしまうのもひとつの方法です。
◎パン生地の過発酵を防ぐポイント
過発酵によりグルテンが壊れてしまったパン生地は、元に戻りません。おいしいパンを作るためには、過発酵を防ぐことが重要です。過発酵を防ぐ方法はいくつかあります。過発酵の原因のひとつは、発酵時間をとりすぎてしまうことです。「別のことに気を取られてつい発酵時間が長くなってしまった」ということがないように、必ずキッチンタイマーなどを使って時間を正確に測るようにしてください。レシピに載っている時間通りに測るのが基本ですが、暑いときや湿気の多いときは発酵時間を短めに設定するほうが良いでしょう。
パン生地の温度を上げないようにすることも大切です。とくに暑い時期は、より一層の注意が必要になります。過発酵を防ぐためには、涼しい部屋でパン生地を扱うようにしたり、必要に応じて水や材料を冷やしたりといった工夫ができます。パン生地に使う水の量をレシピに載っている量から5〜10ml減らす、あるいはイーストの量を減らすのも有効です。作業日数を2日に分けても大丈夫なときは、オーバーナイト法を使うのも良いでしょう。パン生地を冷蔵庫などの低温の環境下で長時間発酵させる方法なので、過発酵の可能性を低くすることができます。
もうひとつ大切なのが、何度もパン作りに挑戦して感覚を身につけることです。パンを作るたびに、時間や温度の管理をするのはひと手間ですが、毎回発酵にかかった時間や室温、湿度、パン生地の温度などを記録する習慣をつけると、その後のパン作りがスムーズでしょう。何度もパンを作ってパン生地に触れているうちに、その場の環境に合わせた対応ができるようになればパン作りは上達します。そうなれば、過発酵はかなりの確率で防げるようになるでしょう。
◎まとめ
過発酵になったパン生地は元に戻すことができず、焼いてもあまりおいしくはありません。その際は、パン生地をピザやクルトンにすることでフードロス対策にもつながります。過発酵を防ぐために、発酵時間や温度管理に気をつけながらパン作りを楽しみましょう。