正しい方法でパン生地を作っているはずなのに、パン生地がベタついたり、焼き上がりが上手にいかなかった経験はありませんか?それは、パン生地を傷めてしまっているからかもしれません。この記事では、パン生地が傷む仕組みや原因、傷みを防ぐ方法について解説します。
◎パン生地が傷んだ状態とは?
パンの主原料となる小麦粉は、水と一緒にこねるとグルテンを形成します。グルテンは小麦粉に含まれるグルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質が絡み合ってできたもので、よくこねることで網目構造となります。イーストによる発酵で発生したガスを包み込むのがグルテンの網目構造であり、パンの食感を左右します。おいしいパンを作るためには欠かせないため、パン生地をこねた後はグルテン膜ができているか確認することが大切です。パン生地を薄く伸ばしたとき、ちぎれずに指紋が透けるくらいの膜が張っていれば大丈夫です。
ところが、つながったパン生地に何かしらのストレスが加わると、グルテン膜が切れてしまいます。このときのパン生地の状態を、傷むと表現します。パン生地の表面が傷むと、肌が荒れたようにツヤのない見た目になることから「荒れる」と呼ばれることもあります。
傷んだパン生地はベタベタするのが特徴的です。1度壊れたグルテン膜は元に戻すことができないので、パン生地が傷むとその後の工程において扱いづらくなります。傷んだパン生地は焼成後の見た目や味、食感にも影響します。傷んだ部分には焼き色が付かないので、見た目は白っぽくなったり焼きムラができたりします。また、生地切れした部分からガスが抜けていくので、ボリュームが出ずかたいパンに仕上がります。
◎パン生地が傷む原因
パン生地が傷む原因はいくつかあります。1番考え得る原因は、パン生地の触りすぎがあげられます。とはいえ、普通にパン生地をこねる程度ではパン生地が切れることはほとんどありません。たとえば、グッと作業台に擦り付けるようにこねてしまうと、つながっていたパン生地が切れてしまいます。ミキサーを使用する場合、強い力のまま回しすぎるとオーバーミキシングとなり、グルテンの網目構造は壊れパン生地がベタベタになります。
パン生地が傷むタイミングで多いのは、丸めや成形の工程です。必要以上に触ったり、手とパン生地の接触面積が大きかったりすると、その分パン生地にストレスがかかります。とくに、パン作りに慣れていない人ほど触りすぎてしまう傾向があります。丁寧に扱おうとした結果、パン生地に触れる時間が長くなってしまったり、力を入れて触ってしまうのです。うまくいかなかったからと、何度も同じ工程をやり直してしまうのも、パン生地が傷む原因となります。
パン生地の扱い方に問題がなくても、発酵中などに使用するラップや濡れぶきんが原因でパン生地が傷むことがあります。パン作りにおいて乾燥は大敵です。そのため、ベンチタイムや発酵のときには、パン生地が乾燥しないようにラップや濡れぶきんを被せることが推奨されています。しかし、そのラップや濡れぶきんがパン生地にくっついてしまって、剥がす際にパン生地を傷めてしまうことがあるのです。
◎パン生地の傷みを防ぐ方法
パン生地が傷むのを防ぐためには、パン生地に触る回数は少なく、そして優しく扱うのがポイントです。パン作り教室で講師と生徒が同じ環境、同じ材料でパンを作っても、仕上がりに差が出ることがあります。それは、パン生地に対する接触回数と力加減が違うからで、パン作りが上手な人ほどパン生地にはあまり触りません。パン作りに慣れていない方であれば、リーンなパンよりも油脂の入ったパンを作って経験を積むのがおすすめです。パン生地がやわらかく伸びが良くなるので傷むリスクを軽減できます。
パンをこねるときは、紙粘土や泥団子のように握ったり触ったりしてはいけません。こねるというよりは生地をつなげるイメージでパン生地を扱うようにしましょう。一次発酵後のガス抜きの際は、生地に充満したガスを押し潰すように上から押し広げてガスを押し出します。何度も押したりこねるように触ると、ミキシング時に形成されたグルテン膜が壊れてしまいます。グルテン膜が壊れてしまうと、パンチ後の発酵で新たに発生するガスを保つことができなくなり、パンがうまく膨らまなくなります。成形の際にめん棒を使う場合は、生地を押さえつけるのではなく転がして伸ばすようにしてください。中心から生地を押し出すようにするのがコツです。
パン生地の分割時には、スケッパーを使うようにしましょう。手でちぎるとパン生地にストレスがかかります。切り口が少なくすむように、切る回数は最小限に抑えるのがポイントです。丸めは、パン生地を丸くするというよりも、分割で傷ついたパン生地にハリを与えグルテン膜の方向を整える作業です。丸めが終わった段階でつるんとなめらかな見た目になっていれば、焼き上がりも美しく仕上がります。ここで触りすぎるとパン生地が乾燥して傷むので、最小限の接触回数と接触面積で素早く行います。万が一、生地の表面が荒れてしまったら、多少ならばベンチタイムで休ませた後、少量の手粉をつけて丸め直すことで修正が可能です。
ベンチタイムをきちんと確保するのも、パン生地が傷むのを防ぐために重要です。分割や丸めの後の生地は固く引き締まった状態なので、そのままでは伸びにくいうえに、無理に伸ばそうとすると生地が傷んでしまいます。そのため、生地が緩んで少し平べったくなるまで待ちましょう。発酵中に被せたラップや濡れぶきんがくっついてしまうのを防ぐには、ラップがふれるところに油を塗ったり、スプレーをかけたり、直接パン生地に触れないようにコップなどで高さを出すといった対策が有効です。ラップなどを使わずに大きなタッパーでカバーしたり密封するのも良いでしょう。発酵後のパン生地はデリケートなので、とくに優しく扱うのがポイントです。
◎まとめ
パン生地を傷めないようにするには、すべての工程においてパン生地を優しく扱う意識が大切です。パン作りが上手な人ほど、パン生地をあまり触りません。パン生地が傷むのを防いで、見た目も味も満足感のあるパン作りをしましょう。