パンを焼成するといい香りが空間を包み込み、もう少しでおいしいパンにありつけるという気持ちにさせてくれますよね。この記事では、焼成に使用する設備やパン生地に起こる変化、ポイントなどについて詳しくご紹介します。
◎パン作りにおける焼成とは
パン生地をオーブンに入れて焼くことを「焼成」といいます。焼成は、二次発酵の後に行うパン作りの最終的な工程です。「焼成」という言葉は、高温により物質の性質に変化が生じる場合に使われます。焼成ではパン生地が200℃前後の温度で焼かれることで、私たちが食べられる状態になります。
英語の「bake(ベイク)」はパンやお菓子を焼くことを意味します。それが人を表す「baker(ベイカー)」となると「パン職人」という職業を指します。このことからは、焼成がパン作りを象徴するような工程なのがわかります。パン生地作りから二次発酵までの工程がどれだけ完璧にできていても、焼成が上手くいかなければおいしいパンは完成しません。焼成は見た目や食感など、パンの完成度を決定づける重要な工程なのです。
◎焼成に欠かせないオーブンや窯の種類
パン生地の焼成には、オーブンや窯といった設備が必要不可欠です。オーブンの種類は、ガスと電気、またはデッキオーブンとコンベクションオーブンに分けられます。ガスと電気で火力が高いのは、火を使うガスになります。そのため、ガスオーブンは予熱時間が短くすんだり、高温で一気に焼き上げたいときに重宝します。一方で、電気オーブンはサイズがコンパクト、コンセントがあればどこにでも設置できる、温度の管理がしやすいなどのメリットがあります。
デッキオーブンは、庫内の上下にあるヒーターの蓄熱によってパン生地を焼成します。蓄熱性が高いので、温度が下がりにくいのが特徴です。温度の調整がしやすく、幅広い種類のパンに対応できることから、多くのベーカリーではデッキオーブンが導入されています。コンベクションオーブンは、熱風をファンで循環させてパン生地を焼成します。庫内全体に熱が届くためパン生地をムラなく焼ける反面、熱を直に伝えるわけではないので焼成に時間がかかります。
パン生地の焼成に、石窯を使うことがあります。窯のなかが温まるまで薪を1時間程度燃やしておくなど、手間のかかる上に温度管理の難しい焼成方法です。しかし、遠赤外線の効果でパン生地の中心部まで素早く加熱されるので、水分の蒸発が最小限に抑えられます。オーブンでは作れない、外はカリッとなかはしっとりの弾力があるパンが作れるのが石窯の魅力です。
◎焼成中のパン生地に起きる変化
焼成中のパン生地には、窯伸び、クラストの形成、メイラード反応とカラメル反応の順に変化が見られます。まず、オーブンの熱によってパン生地の温度が上昇すると、発酵が活性化されて炭酸ガスが膨張し、パン生地は大きく膨らみます。この過程は窯伸びと呼ばれています。
パン生地の温度が約60℃に達してイースト菌が死滅すると、窯伸びは止まり、次にクラスト(外皮)の形成がはじまります。パン生地の内部では、でんぷんが60〜100℃で糊化し、70〜75℃でグルテンの凝固し徐々にクラム(内層)を作っていきます。グルテンに含まれている水分がでんぷんに奪われることで、パンの骨格を支える役目はグルテンからでんぷんに引き継がれます。この時点で焼成時間の7割程度が経過していて、パン生地の中心温度はおよそ80℃に達しています。
その後、パン生地の温度が150〜160℃になると、メイラード反応が起こります。糖はタンパク質やアミノ酸と結合すると、メラノイジンという褐色の物質を生成します。さらに190℃以上になると、熱せられた糖がカラメルに変化するカラメル化が起きます。これらの反応により、パン生地はおいしそうなきつね色に色づき、芳醇で香ばしい食欲をそそる香りを発するようになります。
◎パン生地を上手く焼成するポイント
パン生地は室温で発酵し続けるので、二次発酵が終わったら素早く焼成の工程に移ることがポイントです。あらかじめオーブンを温めておけば、作業がスムーズに進みます。オーブンは扉を開けると急激に温度が下がります。とくに電気オーブンを使う場合は、温度が再び上がるまでに時間がかかるので、レシピよりも10〜20℃高い温度で予熱をして、パンを入れた後に元々の設定温度に下がるように調整しましょう。
焼成する温度と時間は、レシピ通りに設定するのが基本です。ただし、家庭用のオーブンなど、種類によってはレシピ通りの高温にならなかったり、表示温度と庫内の温度が異なったりします。レシピと違う分量で作る場合は、分割後のサイズ、オーブンの特性、パンの種類によって変えなければなりません。たとえば、リッチなパン生地は焦げやすいので低めの温度でじっくり焼成する、ふんわりと仕上げたいのなら高温でさっと焼成するなどの工夫が必要です。また、なるべく時間よりも温度で調整するのがポイントです。焼き時間を変えるとパン生地に必要な水分が失われてしまい、なかが乾燥したり冷めたときに固くなりやすいです。
焼成の間は、時々庫内の様子を確認するようにしてください。もし焼きムラがあった場合は、まんべんなく焼けるように位置を変える必要があります。焼き色がつきすぎていると感じたらアルミホイルを被せるか温度を下げ、反対に焼き色のつきが不十分なら温度を上げましょう。ただし、クラストが形成される前に扉を開けてしまうと、冷たい空気でパンが萎んでしまいます。焼成中に扉を開けるなら、レシピの焼き時間から半分ほどが経過してパン生地に色が付いてからにしてください。
パンがしっかり焼けているか確かめたい場合には【(生地重量-焼成後重量)÷生地重量×100=焼減率】の計算式が役に立ちます。焼減率が求められると、焼成でパン生地の水分がどれだけ失われたかがわかります。ハード系のパンなら22%程度、菓子パンなら10%程度が目安です。「レシピ通りに作っても上手くいかない」あるいは「レシピとは違う分量で作りたい」場合には、この目安を参考にすれば最適な焼き温度や時間が見つけられるでしょう。
◎まとめ
焼成は、パンの仕上がりを決定づける重要な工程です。使用する設備の特性や焼成中のパン生地に起こる変化を理解しながら、パン作りを楽しんでくださいね。