日本はもちろん世界各国の家庭の食卓を彩っているパンですが、いつの時代に誕生したのか、その歴史を知る人は少ないのではないでしょうか。この記事では、パンの歴史や日本でメジャーとなっているパンの誕生秘話から名前の由来についてご紹介します。
◎パンが誕生したはじまり
パンがはじめて作られたのは、古代メソポタミアの時代で、今から約6000~8000年ほど前だといわれています。紀元前15000年頃、日本でどんぐりやくるみを利用した初歩的な農業がはじまっていた頃、中央アジアや西アジアで小麦の栽培がはじまりました。そして、紀元前6000年頃に古代メソポタミアでも小麦が栽培されはじめ、小麦をこねて薄いせんべいのような形に成形した平焼きのパンが誕生しました。これが現在のパンの原型とされています。
現在のパンの主流はふっくらとした発酵パンですが、前述した古代メソポタミアで作られたのは無発酵でした。発酵したものが作られた経緯は偶然で、ユダヤ人の女性が夏の暑い日に小麦粉と水をこねたものを蜜を薄めたカメにいれたまま2、3日そのままにしていました。それを思い出し、なんのためらいもなく女性がいつも通りに焼いたところ、ふっくらとした発酵パンが誕生したという逸話があります。
その後は、発酵したパンが主流となり、人々の生活に欠かせない食物として、お供え物の役割などでも作られるようになりました。その後、次第にエジプトやギリシャへも伝わり、技術を身につけた職人が登場するなど、瞬く間に広がっていきました。ぶどうの産地であったギリシャでは、酵母を含んだぶどう液を使ったものも誕生し、そこから量産されるようになりました。パンの歴史はこれだけでは終わらず、古代メソポタミアからエジプト、ギリシャ、それからヨーロッパやアフリカにも伝えられ、世界各国で主食として取り上げられるようになりました。そして戦国時代に入り、鉄砲とともについに日本にもやってきたのです。
◎日本におけるパンの歴史
戦国時代である1543年、航海中にたまたま種子島に到着したポルトガル人によって伝えられました。その後、キリスト教を布教するために来日したフランシスコ・ザビエルらによって、知名度もあがって行きました。しかし、キリスト教が禁じられてからは、日本で作られるのは、長崎県に住む西洋人のためだけで、全国的に広まることはなかったとされています。
日本でパンが広がったのは非常食で、きっかけとなったのが1840年の中国でおこったアヘン戦争です。これまで日本の主食であった米では、戦いの際に米を炊くときの煙が敵に見つかりやすく標的になりやすかったために、保存性も高く持ち運びやすい固いパンを量産するようになったとされています。試作として焼かれたのが1842年の4月12日であり、これを記念して毎月12日は「パンの日」とされています。そしてその固いパンを焼いた江川太郎左衛門は「パンの祖」として知られ、日本の歴史に名を残しています。
1854年に鎖国が解かれたことで、長崎だけでなく横浜や神戸などの港町を中心に広まりはじめました。この頃の日本は、フランスからの軍事的支援を受けていたため、東京や横浜の外国人向けホテルでは、フランスパンが主流でした。その後、明治政府になった時代にイギリスからの支援を受けはじめたことから、山型の形をしたイギリスパンが広まりました。その後1946年、日本にて小学校の給食にはじめてコッペパンが誕生しました。このころから日本にもパンの存在が定着し、たびたび食卓にも出るようになります。全国にも工場が続々と建設され、コッペパン以外にも食パンやフランスパン、デニッシュなどさまざまな種類のパンが生産されていくのです。
◎日本で定番のパンの歴史
日本で現在も営業しているパン屋のなかで最も古い歴史を持っているのが東京・銀座にある「木村屋総本店」です。日本で定番となっている「あんぱん」も銀座木村屋の創業者である木村安兵衛氏が開発したという歴史があります。1875年、日本人の好みに合わせ、日本酒づくりに使う米こうじでつくったパン生地に、まんじゅうの餡を包んで焼いたところ、あんぱんは日本人の口に合うと大ヒットしました。当時は、白ごま付きのこしあんと、けしの実付きの粒あんの2種類を展開していました。「あんぱん」は日本でも定番となり、外国人観光客にも人気の高いパンとなりました。
次は、1904年に誕生した歴史のある「クリームパン」です。横文字のため、海外から伝わったと思っている方もいるかもしれませんが、実はクリームパンを生み出したのは、日本にある「新宿中村屋」です。新宿中村屋の創業者である相馬愛蔵・黒光夫妻が、ある日食べたシュークリームのクリームのおいしさに感動したことがはじまりです。シュークリームのクリームを「あんぱん」の餡の代わりに入れてみたらどうかと試作してできあがったのが「クリームパン」です。乳製品を使っていることからあんぱんよりも高級感があり、栄養価も高いことで大人気商品となりました。その後立て続けにクリームの代わりにジャムを入れた「ジャムパン」なども開発されました。
いわずと知れた人気の「メロンパン」も日本で誕生した歴史があります。メロンパンが誕生したのは、1930年代の神戸のパン屋「金生堂」です。メロンパンの名前の由来はいくつかあります。表面に格子状の溝が入っている姿が、メロンに似ていることから名付けられたという話や、パンの上のビスケット生地にメレンゲを加えていることから、当初は「メレンゲパン」とつけられていましたが、次第に省略され「メロンパン」と呼びやすい名称になったという諸説もあります。現在では、クリーム入りのものやメープル風味が楽しめるものなどアレンジされたメロンパンが多く販売されています。
◎まとめ
普段何気なく食べているパンですが、その歴史を知ることで、さらにパンを好きになるのではないでしょうか。ぜひパンの歴史を思い出しながら、食べてみてくださいね。いつもより深みのある食卓になるかもしれません。