家庭でパン生地を作るとき、バターを入れることが多いと思います。パン作りにおけるバターの役割は、パンに風味を出すだけでなく、パン生地をやわらかくする働きもあります。この記事では、パン生地作りにおけるバターの役割と、上手に作る方法について解説します。
◎パン生地作りにおけるバターの役割
パン生地作りでのバターの役割は、パン生地を伸びやすい状態にすることです。生地が伸びやすくなるのは、固形油脂が持っている特性を利用しているからです。この特性のことを「可塑性(かそせい)」と呼びます。可塑性とは、指で押したときに形が変わる性質のことを言います。可塑性を持った油脂を生地に練り込むことで、生地のグルテンをコーティングしてよく伸びるパン生地にできるのです。
よく伸びるようになったパン生地は、オーブンで焼くとよく膨らみ、ふっくらとしたボリュームのあるパンに仕上がります。生地にバターを加えるのと加えないのでは、こねているときのパン生地の伸びがまったく違います。生地を伸びやすくすることによって、生地の分割や丸めがしやすくなり、好きな形に成形しやすくなります。
パン生地にバターを加えなくてもパンは作れます。その場合、生地にべたつき感はありませんが、生地が伸びにくく小分けにすることや丸めにくい状態になります。焼き上がりにも違いがあり、生地が伸びないことで膨らみが少なく見た目も小さくなってしまいます。食感については、弾力があり噛み応えのあるパンに仕上がります。食事と一緒に食べるときによく出てくるハード系のパンを作りたいときは、バターを加えない方法でのパン作りもおすすめです。一方、ふっくらしてやわらかく風味のあるパンを作りたいときは、パン生地にバターを加えると良いでしょう。
◎パン生地でバターを入れるポイント
バターを使って上手にパン生地を作るためには、まずパン生地作りに適したものを選ぶところからはじまります。バターには塩が含まれるかそうでないかで、「有塩」と「無塩」の2種類に分類されます。
無塩バターは食塩不必要バターとも呼ばれており、塩を加えていないバターのことを言います。塩が使われていないためしょっぱさを感じることなく、バターそのものの風味を味わうことができるのが特徴です。お菓子や料理で使われることが多いですが、持病や妊娠中で塩分制限されている方にも重宝されています。ただし、塩を加えていないことから有塩より賞味期限が短いため、開封後は早めに使い切るようにしましょう。パン生地作りでは、基本的に無塩を使用しますが、一般的に家庭の冷蔵庫に常備されているのは、有塩が多いのではないでしょうか。
有塩は文字通り塩を含んでいるバターで、製造段階でおおよそ1〜2%の食塩を加えています。有塩は、焼きたてのパンに塗って食べるのに使うと、パンの風味が増してさらに美味しく食べられます。そのほかには、料理などの香り付けや味付けに使用します。パン生地作りにおいては、有塩を使用すると塩味が強くでてしまうので、無塩の方が向いています。もし家庭に有塩バターしかない場合は、半分を有塩、もう半分をオイルで代用すると塩気を抑えることができます。
パン生地に使用するバターが決まれば、次はパン生地に混ぜ合わせる工程になります。パン生地に合わせるときは、固形の状態で投入し生地と一緒に混ぜ合わせましょう。混ぜ合わせるときのパン生地の状態は、必要な材料を混ぜ合わせた後の粉気や水気がなくなった状態が適しています。つまり、生地を手などでこねることができるようになった状態を言います。粉や水と同じタイミングで一緒に混ぜ合わせるのではなく、生地にグルテンが形成されてこねやすくなった状態で投入すると、はじめてに加えるよりもパン生地を作る時間が短くて済みます。可塑性を持った油脂はグルテンがあると混ざりやすいため、粉気がなくなった生地に練り込むのがもっとも馴染みやすいため、適しているタイミングと言えます。
◎パン生地作りにおけるバターの注意点
パン生地作りにバターを使うときは、溶けた状態で生地と混ぜ合わせないことです。パン生地が温かくてバターが溶けてしまうと、生地と混ざりにくくなってしまう性質があります。溶けた状態でパン生地に混ぜ合わせてパンを作っても、ふっくらとやわらかく焼き上がりません。ふっくらとやわらかく風味豊かなパンに仕上げるためには、固形の油脂が持つ可塑性を活かすことが重要です。そのため、混ざる直前まで冷蔵庫で冷やしておくなど、固形の状態で生地を混ぜ合わせるようにしましょう。
1度溶けたバターは、冷蔵庫に入れて冷やすと再び固まります。しかしパン生地作りにおいては、バターは1度溶けてしまうと「可塑性」が失われてしまうので、溶けてしまった場合は使用を控えましょう。可塑性を失ったバターをパン生地と混ぜ合わせても、パン生地を焼いたときにふっくらとしてやわらかいパンには仕上がらないので注意してください。
パン作りの工程ではバターを入れるタイミングにも注意が必要です。入れるタイミングはパン生地がこねやすくなった状態でグルテンが形成されてからになります。生地に粉っぽさが残り水と材料がよく混ぜ合わさっていない状態で加えてしまうと、生地と馴染むのに時間がかかってしまい、結果的に作業時間も長くなります。また粉や水などの材料がよく混ぜ合わさる前に加えてしまうと、イーストと混ざってしまうことがあります。イーストとバターが混ざればイーストをコーティングしてしまい、イーストの活性を失ってしまうことがあります。作業効率やイーストの働きのことを考えて、パン生地に加えるときはグルテンが形成された後にしましょう。
◎まとめ
パン生地にバターを加えると、ふっくらとして風味豊かなパンに仕上がります。可塑性を活かすことでパン生地が伸びやすくなり、焼いたときにも膨らみやすくなります。ふっくらおいしいパンに仕上げるためにも、固形の状態で生地と混ぜ合わせるようにしましょう。バターを入れるタイミングや状態に注意しながら、おいしいパンを作ってみてくださいね!