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パン生地の発酵を助けるパンチの役割とは

2023年3月28日
パン作りの工程において、適切にパンチを行うとパン生地の発酵を助け、焼き上がりを良くすることができます。しかし、適切なタイミングで正しく行わなければ逆効果になる可能性があるので注意が必要です。この記事では、パンチがもたらす効果や適切なタイミング、正しい方法についてご紹介します。
◎パン生地の発酵を促すパンチの必要性
パンチとはパン生地の発酵過程で生地を軽く押しつぶしたり、折り畳んだりする作業工程のことをいいます。昔は、パン生地を軽く押しつぶす方法ではなく、手をグーにしてパンチをするように生地を叩いていたことから名付けられました。現在は、昔のようなやり方は行われませんが、名前は今もなおそのまま残っています。
 
パンチがパン生地の発酵を促進する理由はいくつかあります。発酵して膨張したパン生地は、酵母のアルコール発酵により炭酸ガスが充てんしている状態です。炭酸ガスは水を介して気泡にたまり、発酵が進むにつれて気泡は大きく膨れ上がります。そして大きな気泡は、焼成時に気泡内の圧が高まって破裂します。そのため大きくなりすぎた気泡は、焼成前に壊して細かくすることが望まれます。
 
パンチをすることによって気泡が小さくなると、きめ細やかな焼き上がりになるとともに、パン生地もさらに膨らみやすくなります。また炭酸ガスを抜くことで新しい酸素を取り込むこともできます。酵母は新しい酸素によってさらに活性化します。酵母が活性化すると再び発酵が促進され、パン生地はさらに膨張しやすくなります。またパンチによる刺激は、グルテン構造を強化する効果もあります。パン生地が発酵し膨張することに伴って、グルテンの結合も引き伸ばされます。その結果グルテンの結合は弱まり、生地全体の粘弾性が損なわれてしまいます。しかしグルテンは刺激によって結合を再び強めることができるのです。
 
いったん引き伸ばされたグルテンにパンチによる適度な刺激が加わると、パン生地が膨らんだままグルテンの結合が強化され、パン生地の弾性を高めることができます。グルテンの結合が強くなることで、さらにパンもよく膨らむようになります。パンチはパン生地内の温度を均一にする効果もあります。発酵時間が長くなるとパン生地の中央部と端で温度差が生じてきます。パン生地内の温度を一定に保つことで発酵のムラを抑えることができます。

◎パンチを行う適切なタイミング
パンチを行うタイミングは、その目的によって異なります。グルテンの結合の強化が目的の場合は、発酵時間の早めの段階で行いましょう。発酵序盤でグルテン構造を強化することで、パン生地の発酵を助けるとともに、腰持ちの良いパンを目指すことができます。
 
グルテン結合が弱く粘弾性が不十分なパンは膨らみが悪く、きめの粗い食感の悪いパンに仕上がってしまいます。酵母の発酵を促したい場合は、発酵時間の中盤で行いましょう。炭酸ガスを抜いて新たな酸素を取り込むとともに、この段階でもグルテン結合を強化することができます。
 
パン生地の気泡や温度など生地の均整化を図りたい場合には、発酵時間の終盤で行います。発酵の時間が長くなるとパン生地の状態にムラが生じやすくなってしまいます。発酵時間を長く取る場合には、発酵終盤で生地を整える作業を行うと効果的です。
◎パン生地における正しいパンチの方法
昔の酵母は、今のパン用の酵母と違って発酵が進みにくく、パン生地の粘弾性を高めるために強い刺激が必要でした。現在は、パンの酵母の性質が向上したので強い刺激は不必要です。反対に繊細なパン生地に強い刺激を与えると、パンが膨らまない原因になる場合もあります。パンチを行う際のパン生地の扱いには十分気を付けましょう。
 
まずは発酵中のパン生地を取り出し、表面が下になるように台の上に置きます。手粉を少量付けたら、パン生地を手のひらで軽く押さえたり、軽く叩いたりしながらガス抜きをします。このときに押しつぶしたりこねるような強い刺激を与えないように注意してください。強く刺激するとグルテン結合を壊れ、生地の弾力が損なわれてしまいパン生地もかえって膨らみにくくなります。
 
やさしく丁寧にガス抜きを行った後は、パン生地を折り畳んでいきます。縦方向と横方向から3つ折りを2回繰り返すのが一般的です。パン生地を折り畳んだ後は、再び生地を休ませて発酵を続けます。このようにパンチは過剰な刺激を与えず、やさしく行うのがポイントです。場合によってはパン生地を押したり叩いたりせず、折り畳むだけにとどめる場合もあります。

◎パンチを行なわないノーパンチ法
パンの種類や目標とする生地の食感によっては、ノーパンチ法を選択する場合もあります。具体的にはリッチなパン、発酵時間の短いパン、フィリングの多いパンなどに適する方法です。リッチなパンは牛乳、卵、砂糖、バターなど副材料を多く使用します。パン生地は油脂を含むことで膨らみやすくなるので、パン生地を休ませるだけで十分に発酵することができます。
 
発酵時間が短いパンの場合は、酵母のアルコール発酵、炭酸ガスの生成が広がりすぎる前に発酵が終了します。そのため広がりすぎた炭酸ガス、大きすぎる気泡に対する処置が必要ありません。反対にパンチを必要とするパンの代表は、バケットやフランスパンなどシンプルな材料で作るリーンなパンです。リーンなパンは発酵しづらいため、それを促進させる必要があります。ノーパンチ法は、作業工程をひとつ減らすことができるので、パン作りの効率を上げられるのが大きなメリットであるといえます。食感はずっしり身の詰まった生地というより、ふわふわで柔らかく仕上がるのが特徴です。デメリットとしては、小麦そのものの風味がやや劣ってしまうことがあげられます。

◎まとめ
パンチはさまざまな効果によってパン生地の発酵を助ける作業工程です。パンの種類や目指すパン生地によって適切に取り入れることができれば、より仕上がりの良いパンを作ることができるでしょう。パン生地の状態を見極め、適切なタイミングで取り入れられるようになれば上級者レベルです。より良いパンを目指し、パンチの方法やタイミングについて試行錯誤してみましょう。